物語のおわり (湊かなえ)
原作のラストはわからない。しかし、わたしがこの物語をドラマ化するのなら、このラストにしよう。
携帯電話を取り出して天に向かって伸びるストローブマツを写す。メールに添付して、メッセージを打ち込む。
『わたしはおもしろい物語を作る人になる!』
湊かなえの短編集。ある未完の短編集をめぐって、それぞれの物語につながりが生まれている。こちらの短編に出ていた人物が、こちらにも出ていたりだとか、人物はリンクしている。
それぞれの人物の胸の内、現状に対する不満、過去との決別、新しい人間関係、それぞれが持つ悩みを浮かび上がらせ、未完の小説に寄り添わせ、各々の物語をつくっている。
湊かなえらしく、地方に生きる、もしくは地方から都心に出てきた普通の人々の胸のうちを、写実的に、時にサスペンスを交えて描き出す。
いちおうは、タイトルにもあるような、「終わりのない物語」あるいは「物語そのもの」がテーマとしてはあるのだろうが、それよりも各章で語られる人々の暮らしぶりが、雑誌でも読むように共感しながら、現実的なライフスタイルを取り込むことができるのが、この小説の一番の魅力になっているのではないかと思う。
伏線の繋げ方は、やはり一流のものがある。
アクロイド殺し (アガサ・クリスティー)
「いっしょに、からまつ荘に行っていただけますか?」
「からまつ荘に?」わたしは驚いて問い返した。
「あの風変りな小男に会いに?」キャロラインが大きな声でいった。
「ええ。あの方がどういう人か、ご存じでしょう?」
「引退した理容師だろうと想像していたんだが」
フローラの青い瞳がまん丸に見開かれた。
「まあ、あの人はエルキュール・ポアロですよ!
私がこれまで読んだミステリーの中で、これほど驚愕させられたものはありません。ミステリーの中では古典の部類に入るものでしょうが、もっとも好きなものですし、アガサ・クリスティーという作家のすごさを知り、彼女の作品にはまっていくきっかけになった本です。もう、本当に素晴らしい。
作家のキャリアの中での初期のほうに書かれたもの、とのことですが、彼女がどれほどの名声を得たのか、想像もできません。
作品の完成度、プロットの組み立て、小道具の出し方、登場人物の登場とアクション、読者を飽きさせない筆力。すべてが完璧なバランスで成り立っています。そして、クリスティー独自の人物描写がこれほど生き生きと出ているのも、物語の魅力でしょう。娘に恋するブラント少佐やシェパード先生の姉、キャロラインには本当に笑ってしまいました。後から思えばこうした登場人物が、事件の最後に浮かび上がる悲しみといい対比をなしていたなと、思います。
生き生きとした登場人物たちが現れ、それを楽しく追っていきながらも、ポアロの推理は進んでいき、読者にその尻尾もつかませません。いったい誰がアクロイド氏を殺したのか、事件の裏で手を引いているのは誰なのか。
- 作者: アガサクリスティー,Agatha Christie,羽田詩津子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2003/12
- メディア: 文庫
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